【小説】ねこミミ☆ガンダム 第6話 その1西日が射し込む首相官邸の来賓室。天皇はソファーに腰をうずめていた。 ふいに扉が開かれ、慌ただしい足どりでネコミミ女王があらわれた。 「陛下! お待たせしてしまい、大変に申し訳ございません。国会対応が押しておりますゆえ……」 天皇はいつもと変わらない穏やかな口調でいった。 「お気になさらず。女王が首相兼国王として、新国家にために力を尽くしてくださっていることは聞き及んでおります」 女王は向かいのソファーに音もなく座った。 「さっそくではありますが、陛下に重要なお願いがございます」 天皇がわずかにうなずくのを待つと、女王は続けた。 「この度、新設した国立競技場で、ネコミミ族にとって伝統ある体育祭〈マシンドール大運動会〉を開催する運びとなりました。つきましては、開会式において陛下には開会の宣言をしていただきたいのです」 「開会式の宣言ですか。それは構いません。して、これは……」 ふたりの間には低いテーブルがあった。その上に置かれた桐箱の中には真っ白な衣装が丁寧に折りたたまれていた。 女王はいった。 「陛下はご存知であられますか」 天皇はこたえた。 「もちろんです。これは先の大戦中に、私の祖父が身につけていたもの……」 折りたたまれた純白の衣装。その下には大きな鳥の翼のようなものが見える。輝く金色の王冠と先端に星のついたスティックがのせられていた。 先の大戦中、天皇の祖父は現人神としてこの衣装を着ていた。戦意高揚のだめだった。 女王は、「陛下におかれましては、開会式では、この衣装を身につけていただき、新国家を象徴する〈現人神〉を宣言をしていただきます」 天皇は眉をよせた。「現人神……。今の世に人間が神などと……。不遜ではありませんか」 女王は眉も動かさずにいった。 「象徴です。象徴としての神です」 「今は戦時でもありません。平成の世に、そのようなものが国家臣民のためになりますでしょうか……」 「いかなる世であれ、大衆は象徴を求めるものです」 「私は、一度は現人神の座を自らの意思で降りた身。それを、また神を称するなどと……」 女王はテーブルに目を落とし、独り言のようにいった。 「大衆はいかなる時でも象徴を求めるもの。それが神であれ、敵であれ――」 天皇は胸さわぎがしてたずねた。 「敵? 敵とは……」 女王は天皇を真っすぐの見すえながらこたえた。 「郊外の坂之上市には、新国家〈ネコミミ☆ジャパン〉の建設に異を唱えるものがおります。今は政治団体を名乗ってはおりますが、その実態はテロリスト集団のようなもの。集団に賛同する反政府主義者が同市に集っているとも聞きます。そのような者たちを放っておくわけにまいりません……」 天皇の額に汗がにじんだ。 坂之上市には山本英代がいる。国家臣民のために戦うあの少女だけは、なんとしても守らなくてはいけない――。 天皇はこぶしを固く握った。 「朕を脅しておられるのですか」 女王は素早く頭を下げた。 「めっそうもございません! 私には陛下が何を仰っているのかわかりかねますが……」女王は上目づかいで天皇を見た。「すべては新国家のため、臣民のため。新たな象徴を求めるのも、また……」 天皇は大きく息を吐き出していった。 「女王は種族の壁を越えて新国家のために働いてくださっていますね……」 「私はネコミミ王国の女王です。ですが、今はネコミミ☆ジャパンの国王兼首相として、また陛下の忠実な臣下として新国家の建設に励んでおります」 天皇は、箱に納められた白い衣装を見た。その上の先端に星のついたスティックが西日を受けて光った。 「わかりました。この衣装を着たらいいのですね」 「ありがとうございます……! きっと、歴史に残る素晴らしい開会式となることでしょう」 雲ひとつない国立競技場の空に、天皇が舞い上がった。 スタジアムのスタンドを埋める数十万の観衆が見守る。 天皇はクレーンで吊るされていた。真っ白な衣装。背中には大きな翼をつけている。頭には黄金に輝く王冠。星のついたスティックを振り上げた。 天皇はのたまった。 「朕は現人神なりっ!!」 スタジアムの上空に平和の象徴である白い鳩が放たれた。数百万羽をゆうに超える鳩で青空が白く染まった。ちょっと多すぎるようだ。糞害がひどい。 次いで、昼花火がいっせいに上がり、空に七色の煙を引いた。花火が直撃し、黒こげになった鳩がバタバタと落ちてきた。 司会者の声がひびいた。 「これより第9999回、マシンドール大運動会を開催いたします!!」 ――おおおおおぉっー!! 観衆のどよめきがスタジアムを震わせた。 特別席のネコミミ女王は、空を舞いながら開会宣言をする天皇のようすを真剣な眼差しで見つめていた。感慨深げに目を細め、わずかにうなずいた。 となりに立つネコミミ家臣は顔を背け、口もとをきつく押さえながら肩を震わせていた。たまに「ブフッ!」と息がもれた。 大きな歓声と拍手を受けながら、上空に浮かぶ天皇は涼やかな顔をした。プロ根性のなせる技だった。 天皇の真下のグラウンドが割れて、地下から巨大な円柱の塔がせり上がってきた。 円柱のてっぺんは聖火台になっている。 聖火台が天皇と同じ高さにまで上がった。と、天皇は星のついたスティックを振った。聖火台の中央からあかあかとした炎が広がった。 巨大な聖火が点灯した。 聖火にあぶられ、さすがの天皇も熱そうに顔をしかめた。 司会者の声がつげた。 「各国の選手が入場します! 盛大な歓声でもってお迎えくださいっ!!」 各国の旗をかかげたマシンドールがぞくぞくと入場した。 それぞれのマシンドールは胸のハッチが開かれ、外に伸びたコックピットシートの上からパイロットが手をふった。 パイロットの所属する国はそれぞれちがうが、皆ネコミミ族だった。 英代のシロネコが選手通用口を抜けてグラウンドに入った。シロネコは、〈旧日本〉の旗や、新国家〈ねこミミ☆ジャパン〉の旗をかかげるわけにはいかないので〈大漁旗〉を持っていた。 英代はコックピットシートの上から、スタジアムを埋め尽くす観衆に向かい、手を振ったり、投げキッスをしたり、中指を立てたりした。 シロネコがスタンドに近づくと観衆のブーイングと〈ブブゼラの音〉が激しくなっていった。 「フフフ……」 ひさびさに血がたぎった。 司会者がいった。 「さあ、いよいよ始まった〈マシンドール大運動会〉! ネコミミ族にとって伝統ある祭典は、今大会で9999回目の開催となります! 今大会は史上初、太陽系惑星にあるネコミミ王国の新たな植民……併合……〈解放国〉での開催となりました! 解説のキャッツさん! 今大会の見どころなどを教えてくださいっ!!」 解説者がいった。 「そうですね。地球はいまだにマシンドールも普及してないような土人……未開……〈新しいフロンティア〉ですが、このような立派な大会が開催できたことは、ひとえに女王陛下のご威徳によりましょう!」 「今大会では地球の原住民族の参加者はわずか1名しかいません! しかし、その選手は女王陛下との間に大変な因縁があると聞きます! ここにも注目ですね!!」 「まあ、しょせんは〈原始人〉ですからね。大した活躍はできないでしょう」 「ぜひとも、原住民にはネコミミ族の進んだ文明技術を吸収してもらいたいものです! いったんスタジオにお返ししますっ!!」 大運動会のようすはインターネット番組〈ネコミミ☆ティーヴィー〉で全世界に放映されていた。 グラウンドに多くのマシンドールがならぶ中、開会式が行われていた。 英代は、スタンドの下にある関係者用スペースで、NPO法人〈雲ヶ丘ガーディアン〉のメンバーらと最後の打ち合わせをしていた。 吊るされた天皇を見上げながら夏恵來がつぶやいた。 「まーた、何かやらされてる……」 NPOのメンバーらを前に、代表の杏樹羅が力を込めていった。 「皆さんもよく知っているように、今の日本――ネコミミ☆ジャパンでは強力な情報統制により、女王勢力に対抗する私たちのような団体の存在や活躍が、大手メディアで報じられることはありません。 我々にも広報活動の手段として、ホームページ〈雲Gちゃんねる〉や、月1回刊行される小冊子〈ニコニコガーディアン〉があるとはいえ、女王の有する大手メディアに対して、広報活動力では大きく差をあけられています。 しかし! この大会でよい成績を納めれば、メディアに大きく取り上げられると聞きました! 私たちのような団体があることを世間に知らしめるためにも、今大会でなんとしても活躍する必要があります!!」 杏樹羅は英代に向かっていった。 「英代さん! あなたとシロネコの働きにすべてがかかっています! がんばってっ!!」 白いジャージ姿の英代はハチマキをきつく締めた。 「まっかせてください!!」 となりのニアはいった。 「シロネコの性能なら、かなり上位まで行けるのではないでしょうか」 杏樹羅はいった。 「じゃあ、私は委員会があるから。夏恵來さん、みんなのことをよろしくね」 杏樹羅は国会の委員会に出るため去っていった。 英代のとなりにいる全身を白い防護服でおおわれた男性は、英代の伯父だった。運動会があることを知らせると、仕事でこれない両親の代わりに応援に来てくれたのだ。 夏恵來が小声で英代にいった。 「英代ちゃんのおじさん? すごい格好だね……」 英代はこたえた。 「すいません。おじは〈重度のネコアレルギー〉で……」 ネコアレルギーである英代のおじは、ネコミミ族が多くいるところでは完全防護服を着ないと症状が出るのだ。 顔をおおい隠すゴーグルの奥から、おじは残念そうな声を出した。 「なんだ……。運動会って聞いたから、僕はてっきり……」 おじの右手には〈買ったばかりのビデオカメラ〉があった。運動会ときいて、うす着のネコミミ娘がたくさん撮れると思ったのだ。ネコアレルギーでありながらすごい執念だ。 キモいおじだった。 英代は、親族の中でもおじと性格が近いため、おじの考えていることがわかった。 英代はいった。 「おじさん! これから英代とシロネコが活躍するんだから、しっかり撮ってよ!!」 「わ、わかってる……。わかってるよ……」 第1回戦目。 競技は〈1000メートル走〉だ。 全高約20メートルのマシンドールにとっては短距離走にあたる。 ほかのマシンドールがのき並み15秒前後の記録を出す中、シロネコは大会初の9秒台をたたき出し、ぶっちぎりの成績で決勝に進んだ。 決勝戦では、特別にネコミミ女王が参加するという。 司会者の紹介のあと、上空から女王の乗るマシンドール〈ニャべレイ〉がゆっくりと降りてきた。 シロネコとニャべレイ、他10体のマシンドールがトラックのスタートラインに並んだ。 英代のシロネコはクラウチングスタートの姿勢をとった。ほかのマシンドールもそれぞれにかまえた。女王のニャべレイは余裕があるのか突っ立ったままだ。 審判役のマシンドールが一歩前に出る。スターター・ビームライフルを空に向けてかまえた。 スタジアムが静まり返る。 わずかな間のあと、 ――ドヒューンッ!! と、ビームライフルのあざやかな光の束が空に昇った。 シロネコは飛び出した。 英代の動きをトレースしたシロネコの走りは、まさに人間のそれだ。胸を張り、腕を大きく振る。ほかのマシンドールをどんどん突き放していった。 後方集団の中ごろを走っていたニャべレイが前傾姿勢をとった。コースを蹴って大きく踏み出す。と、そのまま地面のすれすれをふわりと浮かんだ。 ニャべレイは、張り出した肩当てにずらりと並ぶスラスターをいっせいに噴き上げた。勢いよく加速してシロネコに迫った。 猛烈な勢いで追い上げるニャべレイ。全力で逃げ切るシロネコ。 2体は同時にゴールした。 写真判定に持ち込まれた。判定の結果がスタジアム後方の巨大ディスプレイに映し出された。 判定では、顔の長さの差でわずかにニャべレイが早かった。スタジアムの観衆がわき上がった。 巨大ディスプレイには両手をあげて観衆にこたえるニャべレイが映った。勝ち誇る女王の顔がカットインされた。 「ちょ、ちょっと待った!!」 ひざに手を当てながらぜいぜいと息をするシロネコから、英代は声をあげた。モーションリンクでシロネコと英代の動きがつながっているため、本気で走ると息が切れるのだ。 女王がいった。 「なんだ。物言いか?」 「お、おかしいでしょ! 今の!?」 「……まあ、不服申立てがあるなら聞いてやろうではないか」 ネコミミ司会者がいった。 「おーっと! 原住民の山本選手、女王の勝利に難癖をつけるつもりか!?」 ネコミミ解説者は、 「汚いですね。さすが、土人、汚いです」 英代は言い返した。 「今、空を飛んだでしょ!?」 女王はこたえた。「……それで?」 「飛んだら反則じゃないの!? 1000メートル走でしょ!?」 「なるほど……。そう捉えたか……」 司会者がいった。「さあ、女王は、この卑劣な物言いにどう切り返すか……」 スタジアムが静まり返った。女王の言葉を待った。 女王はいった。 「地上1メートル上は空じゃない。はい、論破!」 「えぇッ!?」 「おーっと! さすが女王! 山本選手のクレームを見事にはね返したっー!!」 スタジアムの観衆がわき上がった。耳が押しつぶされんばかりに歓声と〈ブブゼラの音〉がなった。 「おかしい、おかしい!」という英代の声はかき消された。 スタンドの下にある関係者席でニアがいった。 「相手が空を飛んでくるとは想定外でした。わかっていれば対策も取れましたが……」 夏恵來がいった。 「なんだかんだで勝たせるつもりがないだけなんじゃないかな……」 両手をあげて勝ち誇る女王のニャべレイに向かって英代はいった。 「ねえ、もう1回走らない?」 たっぷりと間があいた。 無視されたかと思ったが、女王が口を開いた。 「……なぜ、もう1度、走る必要がある?」 英代はこたえた。 「対戦相手が飛ぶなんて思わなかった……。わかってたら、本気で走ったのに……」 「言っておくが私のニャべレイも全力ではなかった」 「お互い本気じゃなかったんだ。じゃあ、今度こそ本気を出して決着をつけましょうか!」 「決着はさっきついたぞ」 「……」英代の言葉がつまった。 女王「なぜ、また走る必要がある?」 「……全力を出し尽くしたい」 「そんな部活に青春をかけるスポーツマンのようなことを言ってもムダだぞ。要するに、負けたのが悔しいんだろ。しかし、私がまた走るメリットはない」 「お互いに全力を出し尽くした――と、いう記憶が残る」 「だから、スポーツマンみたいなことを言ってもムダだ。マシンドールの競技は性能差で決まるからな。お前が何をしようと結果は同じことだ」 「でも、次こそは……」 食い下がる英代に女王はいい放った。 「じゃあ、土下座しろ」 「……え?」 「土下座しだら、もう1度、走ってやる」 「……土下座って?」 「頭をつけてお願いすることだろ! 日本語だろうがっ!!」 しばらく間があいた。英代はいった。 「土下座はやってないっていうか、やったことないからなぁ……」 「はじめての土下座、やってみるか? 見ていてやるぞ」 「私、そういうことをあまり気にする人じゃないけど、ちょっと気分じゃないかなぁ……」 「一応、言っておくが、こっちはお前の気分などはどうでもいい」 「あなたがはじめに空を飛ぶって言ってくれたら、こんなことにならなかったのに……」 「難癖をつけて進行を邪魔しているのはお前だろが! ほら、やれッ! それで、もう1度走ってやる!!」 スタジムを埋める数十万の観衆から爆音のような〈土下座コール〉が起きた。 英代は頭をひねりながらいった。 「うーん、土下座かぁ……。土下座ねぇ……。でも、うーん、ちょっとなぁ……。土下座なぁ……」 土下座コールの中、英代は頭をひねり続けた。 女王は、やけに細い目になるといった。 「じゃあ、負けを認めるな……」 「いや、それはちょっと違うかな。もう1回、ちゃんと走ったら勝つかもしれないし。いや、勝つし!」 女王はあきれたように大きな口でいった。 「お前、ウザいなぁ!」 「いや、ウザいと言われても。私の意見は私の意見だし。それは変わらないし」 女王は早口でいった。 「じゃあ、お前、ポチをゆずるな!?」 「え、均を? なんで、私、関係ないじゃん」 「お前がいつも邪魔をするだろうがッ!!」 「そんな、人をお邪魔虫みたいに。ひどい……」 「酷いのはお前だ! いつもいつもいいところで……」 女王のいう〈いいところ〉は、いつも犯罪のにおいがした。 「本人に聞けばいいでしょ。どうせ無理だろうけど!」 「こいつムカつくなぁ!」 女王は腕を組み、気を取り直したようにいった。「まあ、いい。私とポチの仲を邪魔しないというなら、もう1度走ってやる。いいな?」 「じゃあ、1回は1回ね。1回なら均に近づいてもいいから」 「お前の許しなどいるか!!」 「聞いてきたのはあなたでしょ……」 「こいつ、今度こそ叩きつぶしてやる! ニャべレイの真の力うぉ……見せてやるっ!!」 女王の取り計らいにより、英代のシロネコと女王のニャべレイ、2体による再決勝が行われることになった。 2体がスタートラインに並んだ。 関係者席から見ていた夏恵來がいった。 「もう1回走って、勝てるのかな……」 ニアが、 「まあ、2位でも埋没しますからね。できる限りねばって、目立つのもいい判断ではないでしょうか」 シロネコとニャべレイが、それぞれクラウチングスタイルをとった。 審判役のマシンドールが一歩進み、ビームライフルを真上にかまえた。 スタジアムが静まる。 ――ドヒューンッ!! ビームライフルの光が空にのぼった。 シロネコが飛び出した。ニャべレイをぐんぐん引き離す。 後ろについていたニャべレイが大きく一歩を踏み出す。と、翼のように張り出した肩のパーツがいっせいに開き、ズラリと並んだスラスターから青白い光が噴き上がった。 ニャべレイの体が宙を翔けた。 シロネコのすぐ後ろにまでニャべレイが迫った。 シロネコは腕を大きくふり、脚を高く上げて全力で駆けた。 しかし、ニャべレイに追いつかれた。 ニャべレイがシロネコを抜き去ろうとする。 と、英代は右腕を大きく上げた。同じようにシロネコの腕が上がる。手の先にはニャべレイの張り出した肩があった。 宙に浮かんでいるニャべレイは、わずかにな衝突でも進路が変わるはずだ。 狙いは、事故をよそおった進路妨害。これで女王を負かす。悪くても、もの言いにまで持ち込むのだ。 高く上げたシロネコの腕がニャべレイの肩に当たろうとした、その時――ニャべレイの手がシロネコの手首をつかんだ。 「えぇッ!?」英代はおどろいた。 「フンッ!!」 女王のニャべレイは急制動をかけて着地した。 ニャべレイは、掴んでいるシロネコの腕を大きく上下させるように回した。 と、シロネコは、腕を支点に空中でぐるりと回転した。コックピットの中が逆さまになる。 相手の身体に触れずに投げ飛ばす技――合気道の極意〈合気投げ〉だ。 投げ飛ばされたシロネコは、背中から地面に激突した。 英代は強かに腰を打った。 「いでッ!!」 女王はいった。「貴様のやることはお見通しだ!!」 英代のシロネコは腰を押さえながら立ち上がった。 「ち、違うッ……! 今のは偶然、手が当たりそうになって……!!」 女王は目を細めた。 「ほう……。ここにいたっても、まだ無様に言い逃れようとするか。ならば、判定ビデオを見てみよう」 スタジアムの超巨大ディスプレイに、先ほどの競技のようすが映し出された。 映像にはご丁寧に「疑惑の瞬間!!」「山本選手、暴行で逮捕か!?」などといったテロップが入っていた。 巨大ディスプレイには、シロネコの腕が不自然に上がり、ニャべレイの肩に当たりそうになるところが繰り返し映し出された。 ニャべレイがシロネコの手を掴んだ瞬間、女王の鋭い目つきのカットインが入り、特殊効果とBGM付きでシロネコが投げ飛ばされた。 英代は声をあげた。 「ち、違う……! もう1回、もう1回やれば……!!」 「1回は1回だ。そう言ったのはお前だろう!!」 「うっ……!」英代は言葉がつまった。「な、なぜ、今日に限って鋭い……」 「フフフ……」女王はあやしい笑みを見せた。「私は今日の大運動会が楽しみで、昨晩は一睡もできなかったほど覚醒しているのだっ!」 よく見ると女王の目は赤かった。 「子どもか!!」 女王は声をあげた。「山本英代、失格ッ!!」 スタジアム全体がブーイングとブブゼラの音に包まれた。 ネコミミ司会者が興奮気味にいった。 「おーっと、山本選手のシロネコ! 第一競技の1000メートル走ではまさかの失格だっー! 解説のキャッツさん! この結果をどうご覧になりますか!?」 ネコミミ解説者がいった。 「女王さまに手を出そうとは不届きにもほどがありますね! これが本星なら一族郎党、皆殺しの刑もまぬがれないでしょう!!」 シロネコから降りた英代は関係者席に向かった。 夏恵來とニアが迎えた。 英代はうなだれていった。 「すいません……。いけると思ったんだけど……」 夏恵來がいった。 「うん……。まあ、まだ競技はあるから……。次で汚名挽回しよう!」 こうして1回戦は英代とシロネコはまさかの失格。 競技は2回戦につづいた。 |